ブタの解体からはじまる、ポーランドの伝統的なソーセージづくり

ポーランド南西部の町オポーレで出会った、伝統的なソーセージづくりの様子を写真レポートでお伝えします。1頭のブタを解体し、すりつぶした肉を腸につめる中世からの製法でした。”ソーセージと法律はつくる過程を見ない方がいい”というドイツのことわざがあるそうですが、ちょっとのぞいてみてください。

◎写真・文 糸島岳彦

裏庭にはパンを焼くベーカリー小屋がある。昔は各家庭でパンをつくっていた。

オポーレを訪れたのは2012年の5月、ドイツ人の友人に「中世の生活をしているおじいさんがいるから、彼が死ぬ前に会いに行こう!」と誘われたのがきっかけでした。

おじいさんの家では、薪割りや草刈り、ペンキ塗りなどを手伝いました。薪はキッチンのコンロとお風呂、暖房に使います。電気を使うのは、少しの照明とほとんど見ていないテレビだけ。トイレは母屋から離れたところに穴を掘り、簡易的な小屋をかぶせたもので、穴がいっぱいになると埋めて、別の場所に移動します。
スーパーなどでの買い物が少なく、燃えるものは燃料になるのでゴミはほとんど出ません。ペットボトルの蓋が珍しいのか、窓際に大切に並べられていました。”中世の生活”は、実際に体験してみると、ただの”ケチな生活”という印象でした(笑)

キャプション:せっせと薪割り。この家唯一の燃料。

草刈り中。彼は1時間くらいで疲れてやめていた(笑)

2日目の朝、起きて外のトイレに向かう途中で、ブタの解体に遭遇しました。あわててトイレを済ませ、カメラを持って戻ったところ、私もアシスタントとして参加することに…… 熱湯を運んでブタの体にかけ、毛をはがしていきます。

奥の小柄な男性が"中世"おじいさん、手前はご近所の解体屋さん。

熱湯をかけるとナイフでなでるだけで毛がはがれる。毛はブラシに利用される。

普段、この家はおじいさんの一人暮らしで、8~10頭のブタを飼っています。繁殖もしていて、生まれた時から育て、ソーセージをつくる用、そのまま売る用にするそうです。配合飼料は買わず、残飯や藁がエサ。効率化してお金を稼ぐのではなく、必要最低限に昔ながらの方法でただ暮らす、という生き方です。
ニワトリも10羽くらい放し飼いにしていて、卵をとっていました。昔は野菜畑もあり、馬も飼っていたそうです。

おしりの毛もきれいにはがす。

喉元の穴は、モリのような刃物で突いてシメた跡。苦しめずに一瞬で済む。

全身の毛をはがし終わったら、アキレス腱のところの皮に切れ込みをいれ、棒にひっかけて吊り上げます。滑車を使いテコの原理を利用して、大人2人でかんたんに吊り上げていました。
毛をはがすのにも使っていた刃渡り20cmほどのナイフ1本で、解体していきます。

体長は人間と同じくらい。手で持ち上げてみると、ずっしり重くまったく動かない。

残っている毛をバーナーであぶって取り除く。

腹側を割いて内蔵を取り出したら、背側を切り、左右に切断します。シメたときに、喉元の穴からバケツ1杯の血が抜かれているので、この時点でほとんど血は出ません。

左の男性はこの家に連れてきてくれた友人のマイケル。「なんで起してくれないの!」と不機嫌モード。

取り出した内蔵。

腸の袋と中身を分けているところ。

取り出した腸の袋は、ソーセージをつめるのに使います。中身は、庭にまくとニワトリたちが喜んで食べていました。
解体した肉は、鍋でゆでて柔らかくして骨から取り外し、細かくすりつぶします。

薪コンロ。後ろの青い大きな鍋でゆでてます。

タン(ナイフの下)や頭部は、ゆでたところでマスタードをつけていただきました。手伝ったご褒美です。

温かいうちに手際よく、骨から肉を削り取る。解体屋さんの仕事。

手動の機械で肉をすりつぶす。

塩・こしょうをまぶす。手前と奥で肉の色が違うのは部位が違うから。

作業場となったキッチンの全景。電気製品は天井の照明と向こうの部屋のテレビだけ。

肉をすりつぶした機械に、腸詰め用の金具を付けて使う。

両端を紐でしばる。腸がお腹の中にあったときの形に丸まる。

つめる腸の部位によって形が変わる。詰める肉の部位や塩の量によって、味や保存期間も変わる。

朝6時ごろ作業が始まり、夕方4時には1頭のブタがソーセージと骨になりました。つくったソーセージを食べるのは、1人1食1切れ。ご近所の野菜とソーセージを交換したりしながら、1年かけて1頭のブタをいただくのだそうです。
以上が、私がたまたま目にしたポーランドの伝統的なソーセージづくりです。

家族写真。右から私の友人マイケル、家の主人であるおじいさん、近くに住むおじいさんの妹、マイケルのいとこオリバー。

糸島岳彦
雑誌・書籍などのデザインを手がける制作会社の代表。
趣味は海外旅行と釣り。

 

企画・編集 いただきます絵本プロジェクト
いただきます絵本プロジェクトは、心のこもった「いただきます」の言葉が広まるように、私たちの“食べる”を支える命・自然の恵み・人々の営みを知り、伝えていくプロジェクトです。2013年、「いただきますの日」普及推進委員会に参加しました。
http://itadakimasu.agasuke.net


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